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Channel: はぐれ遍路のひとりごと
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四国遍路29日目

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                       66番雲辺寺
                 遍路試験(29日目) (2003/4/10)

 宿(5:00)→三角寺(65)→雲辺寺(66)→大興寺(67)→宿(16:00)          36.0km

 予定通り早出の5時出発。
遍路道の入口は宿の人に確認してきたのに、いざその場に行ったら分からなくなった。宿の人は
 「高速道路を越えて取付道路を左に曲がった先に発電所の入口があるから、そこを曲がれば後は一本道」と説明してくれた。
 高速道路はすぐ分かり、取付道路も左に曲がった。しかし発電所の入口が分からない。
辺りは薄暗く入口を見落としたかと戻ってみたが分からない。
人に聞きたくても早朝のため誰もいない。結局遍路道はわからず大分遠回りになる車道経由になってしまった。

 三角寺には想定していた時間を少し上回るくらいで到着したが、今日はまだ二つの山越えがある。
そちらが気になるので休憩も取らずに早々に三角寺を出発した。

 三角寺の山を下り国道192号線を歩いていると、僧形姿のお遍路さんが前を歩いていた。
足にマメでも出来たのか右足を引きずって歩いている。
先を急いでいた私は軽い挨拶をして横を通り抜けようとすると、そのお遍路が声をかけてきた。
 「お遍路さん速いですね。今日は何処までの予定ですか。私はお金がありませんので雲辺寺で理由を言って泊めてもらう積りです。
昨日も〇〇寺に泊めてもらいました。右足はマメが出来たのではなく、元々悪かったのが疲れで更に悪くなったようです。」 と
ラダラと説明してくれた。
私は当惑しながらも早く別れたい、別れるきっかけはないかとそればかり気にしていて、相手の話に身を入れて聞いていなかった。
話が少し中断したのを良い事に 「先を急ぎますので失礼します」 と逃げるようにいや逃げてしまった。

 峠のトンネル先の道が濡れている。よく見るとなんと雨が降っていた。
今日で伊予ともお別れだが伊予は雨がよく降る所だった。11日間歩いて6日も雨にあった。しかも土砂降りも経験した。

 それに山奥の札所も多かった。大宝寺、岩屋寺、横峰寺、三角寺そして雲辺寺。
更に昨日のように札所が一ヶ所も無く一日国道を歩くだけの日もあった。
伊予は 「菩提の道場」 と言われているが、私には土佐より厳しい 「修行の道場」 だった。

 合羽を着てトンネルを出ると県境の標識が立っていた。そこには“徳島県池田町”となっている。
雲辺寺は愛媛と香川の県境と思っていたので、此処に徳島県が出てくるとは思ってもいなかった。
しかも徳島の池田-----となると、あの高校野球の池田高校のある町ではないか。
それにしても随分な山の中で、こんな田舎でよくあのように強いチームが出来たものだ。と少々興奮してしまった。
しかし遍路地図だけでは何故ここが徳島県なのか理解しづらい。高速道路マップのように四国が一枚に収まっている地図が必要だ。

 道路脇に自動販売機があったので水を購入して、持っていたペットボトルは処分する。
サーいよいよ最高峰の雲辺寺への登りに挑戦だ。

森の中の山道に入り急な登りになったが、それなりに快調だ。先方の道の脇に太ったお遍路さんが座って休んでいる。
 「今日は。お先に失礼します」 と言ってそのまま通り過ぎようとすると
 「申し訳ありませんが、少し水を分けてくれませんか」 と、お遍路さんも声を掛けてきた。
聴いた瞬間 「エー」 と思った。まだここは山道に入ったばかりで、少し前には自動販売機もあった。
それなのにもう水が無いなんて何を考えているのだ。と思いながらも買ったばかりで口も空けていないペットボトルを渋々渡す。
意地の悪くなった私は、遠慮して一口飲んで返してきたペットボトルをそのまま受け取り 「ジャー」 と言って立ち去った。

 雲辺寺に着く頃から雨は霙に変わった。
しかも風が強く冷たく歩いても体は暖かくならず寒さがこたえる。納経を済ますと境内を廻ることなく早々に大興寺への道を下った。

 霙が雨になり寒さも緩んできて今日の残りの行程も先が見えてきた。
やっとのんびり歩けるようになると、今日追越したお遍路さんのことが気になりだした。

最初の足の悪いお遍路さんは今どの辺を歩いているのだろうか?お金が無いと言っていたが今日中に雲辺寺に着けるだろうか?
あんなに足を引きずり、しかもお金が無いお遍路さんから私は逃げてしまった。
少なくとも阿波でお接待を受けた千円は渡すべきだったろう。今頃になって悔いはじめる。

そんな時ふとあれは若しかすると私に対する試験、そう遍路の資格試験ではなかったのかと思い始めた。
その試験に落ちたため雨が降り出した。

二人目のお遍路さんもそうだった。
遠慮して水を一口飲んだだけで返してきたのに、何故半分くらい分けてやらなかったのだ。
それが嫌でもせめて 「もう一口どうぞ」 何故と言わなかったのだ。
私は汗を余りかかないので水もそんなに飲まない。あのお遍路さんは太っていて汗で顔がびっしょりだった。
なのに一口しかやらなかった。それも嫌々にだ。

仙遊寺で黒糖を接待してくれたお遍路さんが、私の遠慮に対し 「助けると思って貰って下さい」 と言ってくれたのに私は
学習能力が無い。遍路試験不合格だ。そして雨は冷たい強風と霙に変わった。

 香川県らしく溜池が見えてきた所で女性二人が乗った軽自動車が横に停まった。
 「お遍路さん大興寺まで行くなら乗っていきませんか」
あーもう嫌だ。

濡れて汚れている合羽を着ている遍路に自動車に乗れなんて私にはとても言えない。
今日二度も非情な行いをしてしまった私を神は許してくれるのか。それとも更なる反省を求めてきたのか。
なんとか理由を言って車は遠慮したが立去る車がぼやけて見えた。

 宿での出来事も紹介したい。
珍しくその日の夕食は5人の中年遍路が顔を合わした。
みな一人遍路だったので話が弾み、お接待の話が出たとき私は車の接待を断った話をした。
すると一人の遍路が 「お接待は断っては絶対駄目だ」 と強い口調で言い出した。もう一人の遍路もその意見に賛同する。
私は遍路をするのも目的だが、88番まで全て歩き通す事も目的にしているので丁寧に断ったと弁明するが聞き入れてもらえない。
 「折角お接待をしたのに断られると、その人は二度とお接待をしなくなる。」 確かにその通りだ。
だが自分の目的まで放棄して車のお接待を受けなければならないのか、どうしても納得できなかった。
私は遍路の心を理解してないのかも知れない。

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