38番 金剛福寺
打戻り(17日目) (2003/3/29)
宿(5:30)→金剛福寺(38)→宿(14:20) 41.2km
朝5時に起きたらもう朝飯が出来ていた。
何でも同宿の女性が金剛福寺を打って今日中に家に帰ると言ってもう出発したと言う。
そのおこぼれに預かり私も5時半の出発が出来た。
この日は打戻りと言って38番金剛福寺のあと同じ道を25kも戻り、延光寺に向かうコースだ。
距離も41.2kmあり連日の40k台となるので少しでも早い出発は有難い。
朝、思わぬお接待を宿の人から受けた。それは荷物を預け出発しようとした時
「昼飯代わりにしてください。」 と包みを渡してくれた。
「今日はこれから先にコンビニも店屋もないので、泊まったお遍路さんに渡している。」 と言うので
遠慮なく頂いた。さらに
「海岸の遍路道はまだ暗くて分かりにくいから車道のほうのがいい。」 と忠告をしてくれる。
実は夕べ地図を確認したところ海辺の遍路道があったので、そこを歩く予定だったが、忠告通り
車道に変更する。
5時半出発で東側が海なので、若しかしてと期待して歩いていると、期待通りに海からの日の出を
見ることが出来た。
何年振りかの海からの日の出に向かい、般若心経を唱えて結願成就と留守宅の無事を祈った。
早朝から幸先がいい。今日は何か良いことが起きそうな予感がする。
魚を煮た臭いが漂ってきた。それと同時にカラスの鳴声も聞こえ出した。
それも一匹でなく沢山の鳴き声がする。
朝カラスの鳴き声を聞くと良くない事が起きる、という言い伝えがあるが、こんなに沢山の鳴声では
どんな厄災が待ち受けているのだろか。いやな予感がする。
魚の臭気とカラスの鳴声は段々強くなってくる。前方の電線にはカラスが鈴なりだ。
何匹くらい居るのだろう?
野鳥の会の会員ならすぐ数えられるだろうが、生憎私は会員ではない。
それでも100羽以上いや200羽はいるのではないか。
更に近づくと道をピョンピョン歩いたり、空を滑空しているのもいる。
このカラスが襲ってきたらどうしよう! ヒチコック映画の 「鳥」 の恐怖を思い出した。
臭いが更に強くなった所に 「鰹節工場」 があった。
ここが臭いの元凶でカラスを呼び寄せていたのだ。
それにしても利口と言われているカラスが、臭いだけで集まってくるものなのだろうか?
工場が動き出すと何か餌になる物にありつけるだろうか? 疑問はつきない。
打戻しの時またこの工場の前を通ったが、臭いはしたがカラスは一匹もいなかった。
足摺岬の38番金剛福寺で納経している時、うしろから奇妙なアクセントで
「ダレト イッショ デスカ?」 と声がかかった。
振り返ると男性が菅笠の 「同行二人」 を指差している。
顔は日本人だが、姿格好がなんとなく外国人風で、きっと台湾か韓国の観光客だろうと思い
「仏様と一緒です」 と日本語で真面目に答えた。これには我ながらに驚いた。
照れ屋で無信心の私がこんな答えをするとは考えられない。これも修行の賜物か。
イエイエそうではなく相手が日本人ならきっと馬鹿にされたと思い無視しただろう。
外国人だったから親切にしたまでのこと。まだまだ修行の成果は何もない。
境内の公衆電話から家に2回目の電話をした。
テレホンカードを使ったが80円で済んだ。この前の860円は一体なんなんだ。
NTTしっかりせい。
打戻りは楽しい。
38番を打終わり朝来た道を戻りだすと、何組ものお遍路さんにすれ違う。
今まで何故こんなにお遍路が少ないのだろうと思っていたのが嘘のようだ。
確か今日は日曜日なので多いだろうがそれだけだろうか?。
そうだ打戻し以外の遍路道は皆同じ方向に向かって歩いていて、速度も余り変わらないので
会う機会が少なかったのだろう。
そんな中、ちょっと風変わりなお遍路さんに声を掛けられた。
「通行止めが解除されたって知っている?」
「えっ それじゃ迂回路を通らなくてもよくなったの?」 ビックリして聞き返すと
「今日解除になって、さっき通ってきた」 と教えてくれた。
アー良かった。帰りはあの斜面を通らなくても良いと思っただけで気が楽になった。
更にお遍路さんは話を続ける。
「私は野宿をしながら一日50kくらい歩いていて、今日で13日目になる」 と言う。
私はもう17日目なので、それに比べると猛スピードだ。凄い人が居る者だと感心して話を聞いていた。
(このお遍路さんには讃岐(香川)の82番で再会した。)
朝通らなかった海辺のの遍路道を歩いた。
宿の人が 「分かりずらい」 と言っていたが、道は海岸の岩場を通っていて暗ければ危険だし、
道の判断もし難かったろう。素直に宿の人の話を聞いておいて良かった。
でもこの時間になると最高にのんびりした遍路道だった。
近くの岩場では何組もの家族連れが何だろう? 貝か? それとも岩海苔? かを取っていた。
朝からもう30k近く歩いてお腹も空いてきた。
昼飯は昨日の大岐浜にしようと思っていたが、我慢できず宿で頂いた包みを開けた。
中にはお握り3個とお新香が入っていたが、コンビニのお握りとは違って、それ以上の何かが
入っているような感じがして美味しかった。有難いことだ。
子供が何か見つけたらしく大声を出している。のどかだ。
宿に戻り昼飯のお礼を言って、ザックを背負うと肩に重みがズッシリと戻っての再出発だ。
大岐浜では昨日と同じように波打ち際を歩いたが、2回目で感動が薄れるかと思ったが、
やはりここは綺麗な所だ。もし妻が遍路の経験をしたいと言ったらここのコースを案内しよう。
・・・・・・ でもそんなことは有り得ないか。
相変わらずお遍路さんとすれ違う。
高知で一緒になり昨日も会った遍路さんは、足摺岬を一周すると言っていた。
やはり高知で一緒だったご夫婦の遍路さんは今日星空へ泊まると言っていたので、
親切だったことを話すと喜んでいた。
ついでに大岐浜では海に下りて波打ち際を歩くことを進める。
土砂崩れの現場に着くと、まだ工事用車両は何台も作業をしている。
崩れた場所は岬の一番先の部分で10mもなかった。
歩道は海よりの場所に作られていたが、長さもほんの30mくらいだ。
たったこれだけの土砂崩れで国道が何日もストップになるなんて、自然とは美しいだけでなく
恐ろしいものだ。
それにしてもあの斜面を通らないで済んで本当に良かった。
高知で一緒だった女性の遍路さんにも会った。
高知では殆ど話しをしなかったが、向こうから懐かしそうに話しかけてきた。
今日は本に出ていた久百々の民宿に泊まると云う。
この民宿は私も昨夜予約を入れたが、満室で断られている。人気のある民宿のようだ。
打戻しとは中々乙なものだ。
一度会ったお遍路さんとの再会の場所を作ってくれるとは、簡易同窓会のようだ。
しかしこの先はもう今日会ったお遍路さんに会うことはないだろう。
すでに半日から1日の差がついているし、またこんなに長い打戻しもないだろうから。
おげんきで、さようなら。