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Channel: はぐれ遍路のひとりごと
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四国遍路22日目

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                  ザックが水浸し(22日目) (2003/4/3)

 宿(6;20) → 宿(14:20)             33.4km

  ホテルの部屋の中にいても分かる雨音。
今日は車道と離れるのは内子町の公園の中を歩く時だけで、後は途中に札所が無い国道を歩くのみ。

 雨の山道もトンネルも昨日でこりごりしたが、他にも雨だと煩わしい事が幾つかある。
まず雨だと札所で納経するときが煩わしい。
晴れていれば首に掛けた さんや袋から納経帳や経典を出すだけだが、雨だとさんや袋をザックから出したり、
納経帳が濡れないように神経を使う。
一方ザックの雨対策は、ザックの上部にザックカバーが付いているので、それを全体に被せるだけでザックは
濡れる心配が無い。今までの雨はそれで中身が濡れる事は無かった。

 今日明日と田舎の遍路道となるのだが懐の現金が心細い。
しかも今日は旅館を予約してあるので大洲か内子で現金を引出しておかないと宿泊代が払えなくなってしまう。
雨の日は小さいATMではザックから通帳を出し入れするとき濡れてしまうので、内子のメイン通りの銀行を
利用する事にした。

 支出を意識した分けでもないが、今日まで無駄遣いは殆どしていない。昼はコンビニ弁当が主で、飲み物も
下痢で懲りたのでペットボトルは余り買っていない。
歩きの途中で食べる間食もお接待で貰った物で足りている。この調子だと1日8千円前後で上がりそうだ。
今日下す金額は10万円。もっと少なくてもいいのだが何回もATMで下すのが面倒だ。
それにしても合羽に菅笠の今の格好は、何か事件が発生して監視カメラを調査すれば、参考人の最右翼になって
しまうに違いない。

そうそう遍路の本には、カードは郵便局の方が何処にでもあって便利とあったが、私の経験では手数料の事を
考えないなら銀行のが便利と思う。
確かに郵便局は田舎の町にもあったが、ATMの無い局(そんな郵便局があるんだ!)では、手書きで払出書を
書かなければならないと、ブツブツ言っていた遍路さん二人に会っている。

 雨の中の遍路が可哀そうと感じたのか、今日は2件のお接待を受ける。
その内の一つはなんと赤飯のお握りだった。走っていた車が止まり、わざわざ車を降りてきて
 「今日お赤飯を炊いたのでお接待させていただきます」 と女性が包みを手渡してくれた。
何回お接待を受けても、感謝の仕方が上手くならない私は、
ただ 「有難うございます」 と言うだけの対応しか出来ない。なんとも情けないことだ。

 国道56号と別れて橋を渡り国道380号に入ると、大きいスパーが有った。
そこの荷物置場の屋根の下を借りて赤飯の昼食にする。
最近は朝の出発が早いので、腹は12時まではとても持たず、10時には1回目の昼食を取り、2時頃2回目の
昼食を食べるようになっている。
今日も10時頃お接待の赤飯食べ、身支度を整えてザックカバーを再度被せて雨の中を出発をした。

 雨の勢いは弱くならず、国道のダラダラ上りは永遠に終わらないかのように続く。
それでもこの国道は交通量が非常に少ないので、トンネルを歩いても怖くない。それどころか菅笠が雨に打たれる
音もせず静かで良いくらいだ。

 そんなトンネルを越えたとき左側に 「お遍路無料宿」 と看板が出ている建物があった。
この宿の事は本にも載っていたが無料の善根宿で布団や毛布もあるらしい。
当初はこの宿に泊まってみたい気はあったのだが、昨日からの雨でそんな気持ちは無くなっていた。

何しろ昨夜はホテル泊まりで、暖房がエアコンだったので靴下も下着も乾いていない。
今晩乾かせなければ着替えが無くなってしまう。それではとてもここに停まる事はできない。
それでも中を見てみようとしたが、入口はしっかり閉まっていて開ける事ができなかった。
通りには人子一人見当たらないので諦めて歩き出す。

 この辺りは山が迫っていて、畑も人家も山の斜面にへばりつくように建っている。
見た目は長閑な山村風景だが、台風や地震のときはどうだろう。慣れていない私には怖くて眠れないのでは
ないだろうか。今日も雨が強いが泊る旅館は大丈夫かな?など余計な不安も頭をよぎる。

 また腹が空いてきた。赤飯を食べた所のスパーで買えば良かったのだが、お接待に喜んでしまい買うのを
すっかり忘れてしまった。お蔭で食べる物が何も無い。

だが今日はついていた。空腹が気になりだすとすぐに食料品屋(萬屋)が出てきた。しかも店の向かいには
真新しいバス停があり屋根もしっかりしている。入口は戸も付いているので雨も吹き込まない。
早速萬屋でお握りを買ってきて、バス停の中で2回目の昼食とった。
この時ザックは肩から下ろしただけで開けなかった。

 今日の歩行距離は昨日より9km程少ない33kmだが、やはり疲れる。
所詮毎日30km以上を歩いているのだから疲れて当たり前。疲れないのが異常だ、など思いながら歩く。

内子町を過ぎ小田町に入る。今日の宿は小田町の繁華街?を過ぎた、集落の外れにある宿を予約してある。
途中にあった繁華街の旅館も、遍路宿の一覧の中にあったが、中々立派な建物だった。
予約してある宿も旅館なので期待できるだろう。

今日のように一日雨の日は少しぐらい値段が高くても、温かいお風呂に暖かい食事。そしてフカフカの
布団が何よりだ。お金を降ろしたせいか、いつものケチケチ精神を忘れて大きい気分になる。
そうだ今日は燗酒を頼もう。2本? いや3本頼もうっと!

 繁華街から旅館まではほんの1Kか2Kのはずなのに気が弛んでしまい、最後は足を引きずるような
歩き方になってしまった。

 ウン?これが旅館? 山の斜面ではなかったがこれが旅館? 古い民家にただ 「✖✖旅館」 と看板がある
だけだ。民宿だとしても粗末なのに、これが旅館? 意気消沈して入口を開けて中に入った。
中は・・・・・・ あーもう止めよう。

 気を取り直して合羽を脱ぎザックを下ろし、ザックカバーを外そうと手を掛けると何かおかしい。
ザックカバーがブヨブヨしている。ウワー大変だ! ザックカバーの中に水が溜まっている!
それも少し溜まっているのでなく、背中側にカバーを折り返してある所まで溜まっている。
そっとカバーをザックから外すと、水はピシャピシャしていた。

アーア! 昨日の雨で下着も靴下も乾いていないのに、ザックの中まで濡れてしまったとは。
明日着るものが無い、困った。

 カバーの中の水を玄関の外にこぼし、合羽の整理をしていると宿の人が来て2階の部屋まで案内してくれた。
部屋も非常に古いが床の間付きの8畳だった。ただ何より嬉しかったのは石油ストーブが有ったことだ。
これで濡れた物を乾かせる事が出来ると、早速ザックの中身を全部取り出す。

 ザックの上側にはさんや袋。これはさんや袋自身も防水になっており、中の納経帳等は無事。
次の層には日記も含めた小物類。これらもビニール袋や小さなタッパの入れ物に入れてあったので無事。
次は衣類。勿論衣類も全てビニール袋に入れてあったので濡れてはいなかったが、下着はしっとりと湿った感じで
このままではとても着たくない。
一番底は妻から預かった写経や封筒便箋類だが、これらもビニールに入れてあったが袋の口の始末が悪かった
のか濡れている。写経は字が滲み、場所によっては判読できない状態になってしまっている。
それでも乾かせば般若心経を書いてある事は分かるだろう。

 結局一番濡れていたのは(当たり前だが)ザックだった。
手でザックの内側を触ると水が付いてくる。このままで荷を入れれば又中の物が湿ってしまう。
乾かすしかない。
タオルで何回も水分を拭取り、ストーブで乾かし始めた。
手に持ちながら焦げないように、でも少しでも早く乾くようになるべくストーブに近づける。
そうしているうちに湯気が出始めた。
最初は少なかったが、その内モクモクとザック全体から上がりだした。
ヤバイ! 火災探知機のセンサーが作動してしまう。慌てて天井を見るがそれらしき物は無い。
アー良かった! 最も湯気でセンサーが作動するかどうかは分からないが、多分作動はしないだろうなどと
など考える余裕も出てきた。
夕食を挟んでザック、衣類、写経と何とか乾かすことが出来た。写経は和紙の色が変わり醜い染みも出て
しまったが、折角妻が書いたのだから残りも納経しようと思っている。

 実は写経は私がお遍路に行きたいと妻に言った後、妻が書き出し7枚完成した。
納経するお寺は任せるというので、先ずは最初の1番と最後の88番、それにお礼参りに行く予定の
高野山奥の院には納経しようと決めてある。
後4枚は阿波、土佐、伊予、讃岐の札所に1枚づつ納経しようと思っていた。
今までに阿波では1番と21番太龍寺。土佐では足摺岬の金剛福寺に納経してきた。
これからは伊予では松山の石手寺、香川では善通寺に納経しようと思っている。

 話を元に戻そう。石油ストーブによる乾燥作戦は大成功で、火災センサーも鳴ることもなく、なんとか
全部を乾かすことができた。
今日のような状態で石油ストーブが無く、エアコンやコタツが暖房手段の宿だったらどうしただろうか。
宿の人にお願いするとなると迷惑も掛けるし、遠慮もしなければならない。本当に助かった。

今日の宿が繁華街で見た立派な旅館だったとしたら、きっと暖房設備はエアコンだっただろう。
大師様はそれを見こして石油ストーブのある、この宿を手配してくれたのだ。
これも遍路修行の賜物か、感謝しなければならないのかな。

そうそう楽しみしていた燗酒は乾かす事に熱中していたので頼むのを忘れてしまった。
と言えば格好いいが、実は夕飯のおかずが余りに少なく、酒の肴に回す物が無かったのが実情だ。
お風呂? 実は・・・・・・ 止めよう、すぐ意趣返しする大師様が恐ろしい。

でも翌日料金を聞いて安心した。
名前が旅館なので、きっとぼられると思っていたが民宿並の金額だった。
それなら宿の名前を 「✖✖旅館」 でなく 「✖✖民宿」 としておけばと、また不満が出で来る
修行不足の
私でした。(翌年この旅館から年賀状が届きました)

 大事な事を忘れていた。何故ザックカバーに水が溜まったのかだ。
これはきっとカバーの裾を、ザックの底より背中の上の方に、折り返したのが原因と思う。
カバーを底で止めておけば水が溜まる所は無いのだから。
(ザックカバーの正しいセットの仕方は分かりません)

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