18番 恩山寺
初めてのお接待(4日目) (2003/3/16)
宿(7:10)→井戸寺(17)→恩山寺(18)→立江寺(19)→宿(16:50) 35.6km
17番井戸寺から地蔵院経由の恩山寺への道は途中から下りの山道に入る。
山道の入口は不法投棄のごみが散乱していて 「お遍路さんも泣いています」 と看板が出ているが効果は無い
ようだが、ごみは入口だけですぐと綺麗な小川に沿った道となる。
川には小さな水車や鹿脅しなどが取付けられていて、時々 「カーン」 と甲高い音を響かせている。
柔らかい土の感触が足に優しく感じられ、のんびりとした道だった。
そんな道は一時でまた舗装の固い道に変わる。
「お遍路さーん」 と後ろから呼びかける声がする。
振り返ると70代くらいの女性が自転車でこっちに向かってくると
「どちらまでいきなさる?」 と聞いてきた。今日のことなのかと思い
「今日は19番の立江寺の宿坊に泊まります」 と答えると
「今回はどこまでいきなさる」 と言う、ああ、最終目的地かと
「88番まで行こうと思ってますが、行けるかどうか」 と思わず本音が出た。
「あんたさんなら、大丈夫行けますよ。三日前も若い女の子が88番まで行くと言ってたが、どうなっているか
心配で」 と言いながらバックより財布を取り出し
「あの子にもお接待させて貰ったが、あんたさんにもお接待させて下さい」 と千円札を差し出してきた。
思わず 「エー」 と声が出て頭が真っ白になった。目頭がジーンとしてきて声を出すと涙声になりそうだ。
「私なんかに-------」 何をどう言ってよいのか分からない、ただ口の中でもぐもぐしていただけだった。
他にも何か話しただろうが覚えていない。そうするうちに
「それじゃあ 気をつけて行きなされよ」 と自転車に跨って行ってしまった。
碌なお礼も言わず。そうだお接待のお礼には納め札を渡すと書いてあったが、それも忘れてしまった。
慌ててもう一度去っていたお婆さんに向かって鼻を啜りながら頭を下げた。
それにしても私のような宗教心の無い者にも、お金のお接待があるとは信じられない。
申し訳ない。この千円札は家に帰ったら床の間に置いて毎日般若心経を唱えよう。
本当にありがとうございました。
その日の昼飯は一風変わったうどん屋に入った。
大きな川の橋の袂に 「ウドンの味は値段ではない」 多分値段は安いが味は良いと言う意味の看板だと思うが、
その看板に誘われ橋の袂を下って行った。下には民家と材木置き場、それとその作業場のような物しかなく、
うどん屋のような建物は無い。
仕方なく作業場の入り口を少し開け中を覗くと、間違いなく中は食堂のように見える。
しかし余りきれいとは言えない店内だ。座敷風の所には無いほうが良いと思われるような絨毯が敷いてあり
稲荷すしのケースも汚れている。
「失敗だったな」 と思いつつ中に入り、ざる饂飩の大盛を頼みたいところだが、普通盛を注文する。
「うちは薪で湯を沸かすから煙くなるので寒いけど窓を開ける」 と言って窓を開けた。
薪を燃やし始めると確かに煙が立ち上がったが風に吹かれて外に出ていく。
私は歩いているので体が火照っており、風があっても寒くはないが、普通の人はどうだろう?
きっと寒いだろうなと余計な心配までする。
そうこうしているうちにざる饂飩が出来てきた。
「うまい!」 お腹がすいていることを割り引いても美味い。それに値段も200円とは安い!
「すいません。ざる饂飩もう一枚下さい」 と更に注文をする。と、なんと
「うちは最初に注文してくれなければ駄目」 だった。
これはきっと店の主人が私に不快感を持ったのだろう。
私がいかにも汚いものを見るような目つきをしていたのだろう-------か。
人に情けを貰った自分が、人を見下すようなことをする。本当に思いやりの無い男だ。
よし! 今度ここを通る時があったら必ず “ざる饂飩大盛り” を頼もう。
今日の宿は19番立江寺の宿坊を予約してあるのだが、一つ前の恩山寺に12時半頃着いてしまった。
ここから次の19番までは4km程度しかないので後1時間もあれば着いてしまう。
次の宿を調べてみると19番から11km先に民宿がある。今からなら5時頃には着くだろう。
しかし立江寺に予約をしてしまってある・・・・・・
散々悩んだ末、民宿に空きの確認を入れると 「どうぞ」 と言うことなので、立江寺の宿坊にも電話を入れた。
「昨日予約した静岡の〇〇ですが、足の調子が悪くてとてもそこまで行けそうもありません。
申し訳ないけど予約を取り消したいのですが」 と恐る恐る切り出した。すると
「はい 分かりました お大事に」 と、いともあっさり言って電話は切れてしまった。
嘘も方便と自分で弁解はしたが、後味は悪く今後はもう少し丁寧に距離や時間を判断しようと反省した。
立江寺では私が予約を取り消した者だとは分かりはしないのだが、何故か落ち着かなく早々に退散した。
民宿には予定したとおり5時に着いたが、さすがに疲れた。歩行距離は36k弱なので距離そのものより急に追加した
19番からの11kmで焦ってしまい、気分的にも疲れてしまった。
宿はお遍路さんばかり10人くらいはいた。中に20代前半と思われる女性もいたので、もしや今日お接待を受けた時の
話の女性かと思ったが、3日前なら今頃こんな所には居ないだろう、と話しかけるのは止めた。
今日は一日中色々あった日だった。他人からあんな感激のお接待を受けたのに、自分は思いやりのない態度を取ったり、
お寺さんに対して嘘を言ったり、本当にどうしょうもない奴だ。
いつもはやらないが寝る前に般若心経を唱える練習をした。